犬が急に頭を傾けるように…平衡感覚の異常「前庭障害」の原因は

2023/12/05

犬が急に頭を傾けるように…平衡感覚の異常「前庭障害」の原因は

犬が急に頭を傾けるようになったら

急に頭を傾ける、くるくる回りだす、しっかり立つことができずにふらつく。
ワンちゃんと生活していると稀にそんな状況に遭遇することがあります。

犬が斜頚(しゃけい)になる原因はさまざま。
今回はその原因の簡単な説明と対策について解説していこうと思います。

前庭(ぜんてい)という言葉は聞き馴染みがないかもしれませんが、
三半規管という場所は聞いたことがあるかもしれません。

前庭はその三半規管の一部になります。
前庭とは耳の奥にある内耳とよばれる場所から脳にかけての領域であり、身体の傾きを感知して調整している器官です。

また水平のバランスをとるために前庭から脳へ行く信号を伝達する神経は「前庭神経」と呼ばれています。

前庭もしくは前庭神経自体に何らかの悪影響を受けることで前庭疾患が引き起こされるのです。

前庭疾患が起きると、ヒトで例えるとバットをおでこにつけてぐるぐると回った時のような、
目が回っている状態になってしまうといわれます。

そのため気持ち悪さが出てきて食欲がなくなったり、
目が回ることで眼振とよばれる目が左右に震えたりするような症状がでてきます。

ワンちゃんに斜頚が見られたら症状を抑えることと、原因を調べるためにかかりつけの病院に相談しましょう。

甘く見ていると危険!外耳炎からの前庭障害

外耳炎はたれ耳系のワンちゃんや、
アレルギー性皮膚炎など元々の体質的素因を持っている子はより注意する必要があります。

耳は外側から外耳・中耳・内耳と区分されます。
外耳は耳の穴から鼓膜まであり、外耳炎の場合にはその領域で炎症が収まっています。
しかし外耳炎をそのまま放置したりするとどんどん炎症が進行していき前庭で障害が発生してしまいます。

初期の段階で炎症をしっかり止めてあげないと慢性化し、耳の皮膚が厚くなって炎症が引きにくくなります。
炎症の程度が強くなると外耳と中耳の間にある鼓膜を破って進行し、
内耳近くにまで炎症が及ぶことで前庭障害を引き起こすのです。

なかなか気づけない耳の腫瘍

なかなか気づけない耳の腫瘍

耳の腫瘍も前庭障害を引き起こす可能性のある疾患に分類されます。
腫瘍によって周りの組織が圧迫されてしまい、神経に触れることで傾く症状が出てきます。

外耳炎の場合も同様ですが、疾患がある方向へ頭が下になるように傾いてしまいます。
また発生する腫瘍の中には悪性の腫瘍もあるので、
斜頚が出てきた場合には腫瘍がないかどうかをチェックすることが非常に重要なポイントになります。

耳の腫瘍には乳頭腫、基底細胞腫、耳垢腺腫、耳垢腺癌、扁平上皮癌等が挙げられます。
耳垢腺腫、耳垢腺癌は耳垢を分泌する分泌腺が腫瘍化する疾患であり、耳周囲に特有の腫瘍です。
その他の腫瘍は皮膚のどの部位にでも起こりうる腫瘍となっています。

耳にできる腫瘍のなかでも耳垢腺癌、扁平上皮癌は局所浸潤や転移をすることもある悪性腫瘍に分類されます。
これら悪性腫瘍は物理的に切除することが治療の第一選択になるため、
耳にできものができた場合にはしっかり検査を行いましょう。

耳はデリケートな部分でもあるため、検査しにくい場所の場合には鎮静などの処置が必要になる場合もあります。
獣医さんに相談してみましょう。

耳の奥を観察する時には一般的には耳鏡というライトで覗いて確認することになります。
ただし、症状が耳の奥にあるのであれば耳鏡で確認することは困難です。
その時はオトスコープと呼ばれる内視鏡のようなものを用いることがあります。

脳の異常でおきる前庭障害

脳の異常でおきる前庭障害

耳周辺の障害は末梢に原因がある場合です。
それに対して中枢にあたる脳に疾患がある場合にも同じような症状が出てきます。

前庭神経が進んでいった先の脳で異常が出てきても同じように傾いてしまう症状になることがあります。
これは中枢性の前庭障害とよばれ、斜頚が見られた際に耳をチェックしてみても何も見つからない場合に疑います。

頭のなかは外側から観察することができません。
病院では基本的な神経学的な検査を行い、状態に合わせて必要ならばMRI検査で原因を調べましょう。
脳炎、脳腫瘍、脳血管障害(脳内出血や脳梗塞)などの可能性が挙げられます。
また交通事故や怪我などが見られたあとであれば頭部外傷などによる脳挫傷も鑑別にあがります。

ホルモンの異常が起きる甲状腺機能低下症

高齢のワンちゃんで多く見られる甲状腺機能低下症の症状には頭部の神経の機能障害があります。

ホルモンの量が足りなくなることで顔面神経麻痺が起きて頬や口の周りの神経の働きが弱まり、
顔の筋肉が緩んでしまうことがあるのです。

神経障害が顔面神経のみならず前庭神経に及ぶことがあり、その場合には斜頚が見られてしまいます。
甲状腺機能低下症の場合には斜頚だけではなく、活動性の低下・嘔吐下痢などの消化器症状なども現れます。

症状の進行はゆっくり進むことが多いので年齢による変化と思っていると実は、
なんてことも。全身の血液検査を行う際に、合わせて甲状腺ホルモンのチェックもおすすめします。

何もないのに症状が…特発性前庭障害

何もないのに症状が…特発性前庭障害

斜頚の症状が出てから色々と検査を実施したのに何も原因がわからないことがあります。
これは特発性前庭障害と呼ばれ、現代の獣医学では原因を突き止めることができない前庭障害です。

特発性とは原因不明を言い換えたもので、一時的な神経の麻痺などもうたがわれていますが、
MRI検査を実施しても明らかな異常がない場合に診断される病気です。

この状態は時間経過でゆっくりと治癒していきます。めまいなどの症状は出ているため、
気持ち悪さなどに対する治療を実施して治るまで待つことになります。
治るまでの期間は個体差があるため少し気長に待つこともあります。

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この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

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