病理医と病理組織検査は隠れた診断の協力者

2022/01/20

病理医と病理組織検査は隠れた診断の協力者

病理組織検査について

あけましておめでとうございます。
新年一本目に何を書こうかなと考えましたが、今自分が最も興味がある検査、「病理組織検査」について解説していこうと思います。
病理学とは病気の成り立ちや病気自体を理解する学問で、特に臓器や組織をサンプルにして病気の影響や身体の変化を見つけ、診断する学問を病理組織学といいます。

少し前に人医療の病理診断医についての漫画「フラジャイル」がドラマ化されたので名前は聞いたことある、という人もいらっしゃるのではないでしょうか。

この検査は病院内で行う検査ではなく、採取したサンプルを専門の機関に提出して行う検査で、その機関に所属する病理診断医と呼ばれる先生が診断してくれます。
病気の進行度の確認や様々な病気の確定診断に用いられますが、一般的に出会うことが多いのは腫瘍に関連した病気。
腫瘍診断の分野では確定診断を行うための特に重要な検査となっており、しこりや腫瘍と疑われる部位を外科手術で摘出した後にその腫瘍が良性か悪性かどうかや、どんな種類の細胞が腫瘍になったのかを顕微鏡を使って診断します。

病院で行う検査ではないので、現在私が自分で検査することはありませんが、大学生の時と社会人になってからの数年間はこの病理学を特に勉強してきました。近年はよりメジャーな検査として手術後の確定診断のために実施されます。

有名な検査としてはヒトの乳がんなどの悪性腫瘍の摘出手術時に周囲のリンパ節を同時に一部採取し、そこに腫瘍細胞があるかないかを病理検査で見つけて遠隔転移の有無を診断するものがあります。
ここで見逃したり間違った判断をしたりしてしまうと転移の見逃しや、必要ではない拡大手術(より広く切除すること)の実施など、患者に不利益な状態になってしまうため、非常に重要な検査と言えるでしょう。

これはペット医療でも同様。
再手術や拡大手術の実施を飼い主さんと相談して決める際に、病理医の先生が出してくれる病理診断報告書が重要な判断材料になります。検査機関によりますが、組織の提出から早ければ数日、遅くとも数週間で結果が返ってきます。

診断書に写真を添付してもらえるか要確認

診断書に写真を添付してもらえるか要確認

手術から診断までを簡単に書くと、まずは手術で摘出した組織をホルマリン漬けにして腐敗を防ぎます。その状態の組織を病院から検査機関に提出。その後、検査機関でパラフィン(ろうそくの蝋)を使ってブロック状に固め、カミソリで組織を薄く切ります。薄くなった組織をスライドガラスに張り付けて着色して出来上がり。完成したものをプレパラートといいます。

検査機関の専門の獣医さんがプレパラートを顕微鏡で見てどのような細胞がいるか、悪性の兆候があるかどうかを診断して、診断書を作成。病院に送り返してもらい、かかりつけの先生が説明してくれる。といった手順になります。

多くの場合、文字だけの診断書が返送されますが、検査機関やオプション次第で作成した組織の写真を併せて送ってくれるところもあります。
具体的な判断材料を聞きたい場合は写真がもらえるかどうか獣医さんに聞いてみましょう。

病理診断が必要になるパターン

病理組織検査が必要になるパターンをいくつか見ていきましょう。

まずは皮膚の腫瘤(できもの)。加齢で出てくる良性のできものもあれば、皮膚に多い悪性腫瘍として扁平上皮癌(皮膚の腫瘍)や肥満細胞腫(免疫の細胞の腫瘍)といったものも挙げられます。

雌の乳腺腫瘍も多く、犬では50%の確率、猫では80%の確率で悪性と言われ、特に犬の場合は拡大手術をするかどうかの選択で検査が重要になります。

外見でわかりにくいものだと脾臓(血液を作る臓器)の腫瘍も比較的多く見られます。血管の腫瘍が多く、良性のものは血管腫、悪性のものは血管肉腫と呼ばれます。後者の場合は転移することも多く、病理診断次第では抗がん剤治療に移行することになります。

脾臓に限らず様々な腫瘍の種類があり、それに合わせて適切な抗がん剤を選択しなくてはならないため、病理組織検査なしで抗がん剤治療をすることはありません。

「診断とは決断」病理医と臨床医の仕事とは

ここまで「病理診断は確定診断」と説明してきましたので、検査をすれば100%病気がわかるように聞こえたかもしれませんが、実際は病理の先生も迷う事があります。もちろん臨床医(かかりつけの先生)も同様。毎回病気のすべてが把握できるわけではありません。
その理由は様々で、純粋に組織像が判断しにくい場合や、時には十分なサンプルが無いこともあります。それでも病理医は診断を決め、診断書を返さないといけないですし、臨床医もそれをもとに治療プランを立てないといけません。現状ある情報で飼い主さんと相談し、決断をしていくことが私たちの仕事なのだと思っています。

手術なしでOK?簡易版病理検査「針生検」

最後におまけといいますか、麻酔下での手術で組織を丸々摘出しなくてもできる病理診断を紹介します。
それは「針生検」と呼ばれるもので、体表の腫瘤によく適用します。検査したいできものに針を刺して中の細胞を採取し、スライドガラスに直接塗って顕微鏡検査を行います。
かかりつけの獣医さんがその場で確認し明らかに問題がない検査結果であればその場で説明してくれるでしょう。痛みが少なく麻酔をかけないため検査のハードルも高くありません。
ただし、判断がしにくい微妙なラインの像がみられる場合には検査機関に提出したとしても、病理組織検査と異なり病変部を丸々採取したわけではないので確認できる細胞数も少なく、正常な組織との関係も正確にはわからないため信頼性においてはやや劣ってしまいます。

気になるできものがある場合にはかかりつけの先生に相談してみましょう。
経験上明らかに腫瘍でない場合もありますし、疑う腫瘍の種類やペットの年齢、血液検査などの要素を加味してより良い選択肢を提示してくれると思います。

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この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

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