放っておくと怖い、ワンちゃんの体表のできもの

2022/06/09

放っておくと怖い、ワンちゃんの体表のできもの

ワンちゃんの”イボ”気になりませんか?

日頃気になってはいるけれど、ペットが体調を大きく崩すわけでもなく、それだけのために動物病院に行くほどではないかな…という「ちょっとした悩み」の相談を受ける機会が増えています。

その中でも多い質問の一つに身体にイボができてきたというものがあります。

これらは体表腫瘤(しゅりゅう)や皮膚腫瘤と呼ばれます。皮膚腫瘤はその他の腫瘤と同様に転移などの害を示さないもの(良性腫瘍)と転移や浸潤(しんじゅん)を起こすもの(悪性腫瘍)があります。

これらの腫瘤は見た目で区別できることもあれば、細胞診をして顕微鏡で確認する必要がある場合も。今回はワンちゃんの体表のできものについて解説していきます。

イボの種類

乳頭腫(にゅうとうしゅ)
見た目が特徴的な良性腫瘍。最も多く目にする症状です。カリフラワーに例えられることが多く、頭が膨らんでおり、くびれがある見た目をしています。若い時にできるものは「パピローマウイルス」というものが関連していると言われており、1ヶ月程度で縮小することが多い腫瘍です。老齢になってできるものはウイルスとは関係なく発生します。基本的に害はありませんが、表面が通常の皮膚よりも柔らかいため、擦れることで出血してしまうこともあります。

表皮嚢胞(ひょうひのうほう)
皮膚が膨らんでいるように見えても、腫瘍ではないものを言います。皮膚のなかに袋状の空間ができ、袋の中に垢が溜まっていって膨らんできます。垢が身体にとって異物になるため、炎症が起きてしまうと、炎症によってしこりが大きくなったり、炎症が落ち着いて小さくなったりを繰り返すことも。それ以外の大きな害はありませんが繰り返すようならば外科的切除も選択肢になります。

皮脂腺腫(ひしせんしゅ)・過形成(かけいせい)
汗腺や脂腺などの腺組織が腫瘍化あるいは過形成(腫瘍にはなっていないが大きくなったもの)して大きくなったもの。まぶたにできるマイボーム腺腫や肛門周囲腺腫など、場所によって名前が変わることも。基本的には乳頭腫と同様に外科的な切除で完治するタイプの腫瘍です。これと似たタイプの良性腫瘍の毛母腫(毛穴の細胞の腫瘍)ができることもあります。

形質細胞腫(けいしつさいぼうしゅ)
今までの腫瘤は皮膚に本来あるものがおかしな場所にできたり、腫瘍化したりしたものでしたが、これは形質細胞とよばれる免疫細胞(白血球の仲間)が腫瘍化して皮膚で増殖した病気です。中・高齢の子で発生し、今までの腫瘤と違って見た目がやや特徴的。赤、もしくはピンク色をしています。

単発で発生した場合は外科切除で良好な結果となりますが、ごく稀に多発してきた場合には「多発性骨髄腫」と呼ばれる悪性の腫瘍になってしまっている可能性があります。確率としては数%程ですが注意が必要です。

組織球腫(そしききゅうしゅ)
この腫瘤も形質細胞腫と同様に白血球の仲間である組織球(マクロファージ)が増える腫瘍です。この腫瘍は高齢の子よりも若い子にできやすく、2cm以下の小さいものは数ヶ月の経過観察の後に消失します。稀に高齢で発生した大型の組織球腫は完全に退縮せずに一部残ることも。この腫瘤は形質細胞腫と似て赤い見た目をしています。

ただのイボじゃない!悪性皮膚腫瘤に要注意

ただのイボじゃない!悪性皮膚腫瘤に要注意

扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)
扁平上皮と呼ばれる一般的な皮膚の細胞が腫瘍化したもの。表面が潰瘍化することが多いので、どちらかというと異常に気づきやすい腫瘍です。皮膚のどの部位にも発生しますが、ワンちゃんは頭部や指、顔周りや肛門などにできることが多く見られます。ネコちゃんは眼瞼や口唇、耳など顔周りにできることが多く、どちらの場合も進行すると周囲のリンパ節や肺などに転移を起こすため、気になったら早めに受診しましょう。皮膚腫瘍の20%前後を占めます。

悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)
メラノーマという名前でも知られる、メラニンを作る細胞が腫瘍化したもの。良性のこともありますが、外科的な切除を実施したあとの組織診断で鑑別します。この腫瘍で注意すべきなのは口腔にできた場合。進行がとても早いため異常には気づきやすくなっています。その他四肢にもできることがありますが、皮膚の悪性黒色腫は口腔のものと比較すると再発や転移の確率は低いので病理の結果しだいでは抗がん剤なども使わずに経過観察となる場合もあります。皮膚腫瘍の6%前後と言われます。

肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)
皮膚の悪性腫瘍では最も発生頻度の高いもので、肥満細胞と呼ばれる免疫細胞が皮膚で異常増殖したものです。ワンちゃんでは皮膚に発生するものが一般的で、グレードによって転移や再発率が変わってきます。ヒスタミンと呼ばれる物質を多量に出すことで全身症状を引き起こすこともある腫瘍です。針生検による診断が比較的容易ですが、グレードの分類を行うためには外科手術をして病理診断をする必要があるため、基本的に手術で切除します。切除後の評価によって経過観察になったり抗がん剤治療になったりします。

ネコちゃんの場合は皮膚の肥満細胞腫は再発率が低いと言われていますが、脾臓を中心とした内臓に発生する内臓型肥満細胞腫である場合も。止まらない嘔吐など生活の質に直結する症状を示すため、原因となっている脾臓を摘出して症状を改善します。ワンちゃんでもネコちゃんでも皮膚腫瘍の20%を占める腫瘍なので、なるべく針生検を実施して確かめておきましょう。

気になるときは獣医さんに相談を

今回はよく見られる皮膚の腫瘍についてまとめてみました。特に後半の悪性腫瘍についてはその後の治療などにも関わるため、病理検査までしっかりと行うことが必要です。今回は皮膚のできものに絞って綴りましたが、脂肪腫などその他皮膚の下にできる腫瘤も多くあります。

細胞診でわかる限界はありますが、ペットにかかる検査の負担は注射と同じくらいなため、気になったら相談してみてください。取れた細胞の判別が難しい場合は専門の病理の先生による追加の診断を受けることでよりその確率を上げることができますよ。

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この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

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