糖尿病には先がある?猫のケトアシドーシス

2022/09/29

糖尿病には先がある?猫のケトアシドーシス

猫ちゃんは秋の健康診断がおすすめな理由

猛暑日が続いたかと思えば、台風がやってくるようになり、すっかり秋になりました。

動物病院では春にワンちゃんの健康診断をおすすめしているところが多いのですが、同様に秋にも健康診断を実施している病院も多数あります。

私は秋の健康診断は、特にネコちゃんが受診することをおすすめしています。春はどうしてもフィラリアや狂犬病の予防を受けに病院に来るワンちゃんの数が多いため、神経質なネコちゃんはストレスになりやすいものです。

大きな病院ではネコちゃん専用の待合室や診察室が備えられている病院もありますが、多くは同じ待合になるため、ワンちゃんの鳴き声で緊張する場面が多く見られます。その点秋は病院の雰囲気も少し落ち着き、慌ただしさも減っていると思います。

そんな健康診断の項目の中で、以前「血糖値」について解説しましたが、今回はその血糖値異常が原因で起きる糖尿病とその先にある「ケトーシス」について解説してきます。普段の生活の中では気づかないこともある糖尿病ですが、そのままの状態では命を脅かす状態になってしまうのです。

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猫の糖尿病の原因と治療法

猫の糖尿病の原因と治療法

糖尿病は血糖値が上がり、尿中に糖が出現する病気というイメージがあると思いますが、その本質は身体がエネルギーを十分に利用できなくなるというもので、インスリンと呼ばれるホルモンがなくなるか、効かなくなるために発生します。

インスリンは膵臓(すいぞう)の一部、膵島(すいとう)とよばれるところにあるβ細胞から分泌されるホルモンで、血液内を通じて全身に回っていきます。インスリンが全身の細胞に作用すると、細胞が糖分を取り込んでエネルギーとして利用できるようになり、結果として血糖値を下げてくれます。特に肝臓や筋肉の細胞が糖分を取り込んでグリコーゲンというものに組み替えて貯蔵します。

糖尿病はインスリンが効かなくなることで発生し、発生する仕組みによって1型と2型に分けられます。1型はワンちゃんに多いと言われており、膵臓でのインスリン分泌量が低下するため血糖値が増加してしまいます。2型はネコちゃんに多く、インスリンの分泌量は変わりませんが、身体の脂肪の量が増えてきたり、脱水になったりすることで筋肉や肝臓細胞へのインスリンの作用が弱くなってしまうことで発生します。
脂肪の蓄積やインスリンの機能不全が原因となるため、ヒトの医療では肥満や運動不足といった生活習慣病に由来すると言われています。ネコちゃんの場合も同様に肥満であると糖尿病になる確率が3〜4倍程度上昇すると言われています。インスリンが機能しなくなることで糖分を細胞内に貯蔵したり、使用したりすることができなくなり、使えなくなってしまった糖分が血液内にあふれてしまうことで、結果として血糖値の上昇という異常が現れます。

治療に関してはペットもヒトと同様にインスリンの投与が必要になります。治療に使われるインスリンは、基本的にヒトが使っているものと同じものを使用しますが、一部ネコちゃんのために開発されたインスリンも存在します。治療を開始すると定期的な血糖値の検査をしていきながらインスリンの投与量を微調整していきます。

ネコちゃんの場合はごく稀に、糖尿病の初期の段階で治療を開始することができれば、食事を中心とした生活習慣を改善をしていくことでインスリンが必要でなくなる場合も報告されています。

猫の糖尿病の先、ケトーシスとアシドーシス

糖尿病に気づかず症状が進んでしまった場合、あるいは糖尿病のコントロールがうまくいかなくなり高血糖の状態が維持された場合には、「ケトーシス」という状態になってしまいます。これはインスリンの作用がなくなるため細胞が栄養を取り込むことができず、糖分が血液中にあるにもかかわらずエネルギー不足になってしまうことで発生します。

体内で糖分が使用できなくなると身体はタンパク質や脂質を分解して栄養を得ようとしますが、脳で利用するための栄養素として「ケトン体」を産生します。このケトン体は、短時間で利用するだけでは悪影響は少ないのですが、これが長期になると身体が酸性になっていきます。

基本的には弱酸性で維持されているの体内が酸性に傾いてしまうことで身体の調節機能が正しく働かない状態をアシドーシス(糖尿病によるケトン体が原因となるものを特に糖尿病性ケトアシドーシス)と言います。ここまで悪化してくると嘔吐などの症状を強く表し、元気消失や起立不能。体温低下などの全身症状を示す、非常に危険な状態になってしまいます。

ケトアシドーシスの治療

糖尿病が進行することで全身が強い脱水状態になります。脱水が強いとインスリンは十分な作用を発揮することができないため、点滴によって脱水症状を改善することが第一の目標になります。同時に多くの場合、血液中の電解質やリンといったミネラルのバランス異常も発生するため、その治療も重点的に行うことになります。

この治療を乗り越えることが第一の山になり、脱水状態が改善するとインスリンを用いた血糖値コントロールの治療が始まります。ここで電解質と血糖値が安定すると無事入院治療が終わり、通院での治療による血糖値モニターに移行していきます。

ケトーシスを防ぐ、猫の糖尿病を見逃さない

ケトーシスを防ぐ、猫の糖尿病を見逃さない

糖尿病やケトアシドーシスは命に関わる病気ですが、うまくコントロールできれば安定した状態を維持できる病気でもあります。そのためにも初期の症状を見逃さないことが大切。

糖尿病で一般的に見られる症状に多飲多尿があります。糖分は尿量を増加させるため1日にするおしっこの量が目に見えて増加します。またその分身体は脱水を起こし喉が乾くため飲水量も増えていきます。結果的に多飲多尿を引き起こしますが、多くの場合水分の補充が間に合わずに脱水を起こすために治療の開始時点で脱水を直してあげる必要が出てきます。

また最初の項でも書きましたが、健康診断で血糖値や電解質の数値を定期的にチェックしていくことが早期発見の手助けにもなってきます。

今回は糖尿病の仕組みとその先にあるケトーシス(ケトアシドーシス)について簡単に解説しました。怖い病気ではありますが、早期発見することで良好な状態を維持できる病気でもあります。日頃からの観察と定期的な健康診断を意識していきたいですね。

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この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

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