実は多いネコちゃんの隠れ心臓病

2022/10/11

実は多いネコちゃんの隠れ心臓病

意外と気づかれていないネコちゃんの心臓病

今回は意外と気づかれていないネコちゃんの心臓病について書いていきます。

ワンちゃんの心臓病は聴診で雑音が目立つため、比較的診察中に見つけることができます。高齢の小型犬ではその半数が心臓病を持っているとも言われており、かなりポピュラーな病気のひとつになっています。

その反面、ネコちゃんの心臓病は発見率が低い病気と言われています。それはなぜなのか。ネコちゃんの心臓病はワンちゃんのものと比較すると、明らかな強い症状が出てくることが少なく、加えて聴診での雑音もワンちゃんと比較すると聞き取りにくいためです。

そんなネコちゃんの心臓病の中でも、最も多い「肥大型心筋症」に的を絞ってどのような病気なのか、どのような治療が必要なのかを中心に解説していきます。

ネコの肥大型心筋症とは

そもそも心臓は、全身に血液を送り出すための臓器であり、捻じれた4つの部屋からなる筋肉の管でできています。全身を巡ってきた血液はこの4つの部屋と肺を順番に通り、全身の二酸化炭素を排出して、また酸素を全身に送り出すのです。

血液のながれを簡単にまとめると、全身から大静脈を通って心臓にもどり、「右心房」→「右心室」→肺→「左心房」→「左心室」を通ります。右側の部屋は全身からの血液を肺に送る役目、左側の部屋は肺から集めてきた酸素の多い血液を全身に送り出す役目を持ちます。

肥大型心筋症は心臓を構成する筋肉が変性し、壁が分厚くなってしまう病気を指します。心臓の壁が分厚くなることで各部屋の中に容れることができる血液の量が少なくなり、全身に回る血液量(心拍出量)が減少。それを補うために身体は心拍数をあげていき、心拍数が異常に上昇して不整脈がでてしまったり、心拍数が上がりすぎた結果逆に心拍出量が減ったりします。
心拍出量が減少すると心臓やそれよりも手前の静脈に血液がうっ滞し、「うっ血性心不全」になります。また心臓全体の形のバランスも崩れてしまい、各部屋の血液が逆流しないようにしている弁がうまく閉まらずに血液が逆流する「僧帽弁逆流」になることもあります。

肥大型心筋症には甲状腺機能亢進症(https://www.idrugstore.jp/pet/article/9)全身性高血圧が関与していることが知られていますが、原因が不明なこともあります。
多くの場合はネコちゃんに見られる病気ですが、ごくまれにワンちゃんにも見られることがあります。ネコちゃんでは特にメイン・クーンやアメリカン・ショートヘアが遺伝性に肥大型心筋症になりやすいと言われています。

肥大型心筋症で見られる症状

肥大型心筋症での代表的な症状は、ほかの心臓病と同じように運動への耐性がなくなり疲れやすくなったり日常での動きが少なくなったりします。また症状が進むと肺や胸に血液が溜まっていき肺水腫や胸水貯留の原因になります。

肺に水が溜まった場合には溺れた時と同じ状態になってしまうため、肺での酸素交換ができなくなってしまうのです。胸に水が溜まってしまうと十分に肺が膨らまなくなり、胸を大きく動かし、全身をつかって息をする努力姓呼吸を示すように。

急性に出てくる症状ではう動脈血栓塞栓症(https://www.idrugstore.jp/pet/article/34)があり、突然強い痛みが出てきたと同時に(多くの場合)後ろ足が動かなくなってしまいます。血栓が詰まった場所よりも先に血液を送ることができなくなるため、症状が強いと足が壊死してしまう危険性も。

血栓症では血栓が詰まってしまう場所によって出てくる症状が様々で、腎臓につまると尿を作ることができなくなり命に関わる事態になることも。また、強い症状が出ずに発見が遅れると、心臓の形が変形して急に失神を起こすこともあります。

肥大型心筋症になったら?

肥大型心筋症の診断は心臓のエコー検査や実際に出てしまっている症状で行われ、進行度合いによってステージA、B1、B2、C、Dと分類されて診断が行われます。それと同時に甲状腺ホルモンや高血圧など、原因が明らかになっている場合は、その原因疾患の治療を行っていきます。
肥大型心筋症についてはこれがスタンダードと言えるような画一化された治療がないため、状況に応じて治療を変更しながら経過を観察していくことになります。

症状が進み頻脈が見られるようになると心拍数を下げる治療を行うこともあります。一度変性してしまった心臓の筋肉は元の状態にもどることはありませんが、原因疾患の治療が進むと症状が良化することが多くみられます。

隠れ心臓病の怖いところ。他疾患との関わり

隠れ心臓病の怖いところ。他疾患との関わり

ネコちゃんの肥大型心筋症の最も怖いところは、症状が出てこないことが多く、気づかない事がある点です。

ネコちゃんの病気では腎臓病(https://www.idrugstore.jp/pet/article/74)糖尿病・ケトアシドーシス(https://www.idrugstore.jp/pet/article/130)など治療の一環として多くの静脈内点滴を必要とする病気があります。これらの病気になるとほとんどの場合、全身に脱水が起きています。

そのような状態では聴診で雑音が聞こえたり、超音波検査で心臓が分厚く見えたりすることがよくあるため、潜在的な肥大型心筋症が見逃されてしまう場合があります。

心筋症がある状態で大量の点滴を実施すると心臓がその点滴の負荷に耐えることができずに状態が急速に悪化する場合があります。そのような事態をさけるためにも定期的な健診で血液検査だけではなく、レントゲンや超音波検査などの画像検査を行っていきましょう。

病気 獣医師 タメになる ねこ

おすすめのペットグッズ

この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

この人の書いた記事を見る

\SNSでシェアする/

アイドラペットTOPへ戻る