ご飯を食べなくなった高齢猫 それ、歯周病が原因かも

2022/11/08

ご飯を食べなくなった高齢猫 それ、歯周病が原因かも

高齢のネコちゃんに見られる歯周病・口内炎

今回は高齢のネコちゃんに見られる歯周病・口内炎について解説していきます。

この病気は保護猫や元野良など、外猫出身の子に多く見られる病気ですが、素因を持っている子は外猫出身でなくても発症することがあり、食欲低下に影響を及ぼしてしまいます。高齢のネコちゃんはその他にも多くの要因から食欲が下降気味になるため、注意が必要です。

猫の口内炎の原因と予防法

ネコちゃんの口内炎の原因はウイルスや細菌の感染、免疫の異常と言われています。

まずはウイルス感染ですが、これはカリシウイルスやヘルペスウイルスと呼ばれるウイルスによるもの。これらのウイルスは子猫の時によく感染する、猫の上部気道感染症(ネコカゼ)の原因の一つと考えられています。

このウイルスたちは鼻や気管支の粘膜にダメージを与えることで鼻炎や咳を引き起こし、重症の場合には細菌と同時に感染することで肺炎を引き起こすこともあります。症状が非常に似ているためどちらが原因であるかを特定することは非常に困難です。

このウイルス感染症は子猫の時に感染してほとんどの場合には治癒しますが、高齢となってきて免疫力が低下することで再発することがあります。免疫力が落ちていることも相まって難治性の口内炎となります

細菌感染の場合は、免疫力が落ちてきたときに発症するため「日和見感染(ひよりみかんせん)」とも呼ばれます。普段から口腔内にいる常在細菌が原因となるほか、スピロヘータと呼ばれる細菌が関係していると考えられています。

また口内炎は外猫出身の子でより多くなる病気ですが、猫のウイルス感染症で有名な猫エイズや猫白血病が関連しているとも言われています

これらのウイルスはネコカゼの原因ウイルスと比較すると感染力が弱いため、ペットショップやブリーダー出身のネコちゃんは感染率がかなり低いウイルスです。しかしこのウイルスも一度感染してしまうと生涯感染したままになるため、完治させることができない病気です。(猫エイズ・白血病のお話は長くなるためまたの機会に)これらの病気に感染することで、発症しなかった場合でも免疫機能に異常をきたすことがあります。

加齢やウイルス感染による免疫機能の低下で口内炎が発生しますが、その最後の引き金となるのが「歯石」です。歯石の表面はデコボコしており、その隙間が細菌の増殖場所になってしまいます。

年齢が上がるにつれて歯の周囲に歯石が付着していくために、免疫機能の低下と相まって加速度的に原因が積み重なっていくわけです。細菌が増殖することでカリシウイルスやヘルペスウイルスによって弱くなった粘膜に二次感染を引き起こしたり、猫エイズ・白血病ウイルスによる免疫異常で口腔内の細菌に過剰に身体が反応したりしてしまうことで症状が進んでいきます。

口内炎になってしまったら?

口内炎になってしまったら?

猫の口内炎の治療の基礎となるのは「抜歯」。治療法としては原因となる歯石が付着している歯、多くの場合は臼歯(奥歯)ですが、これらを抜いてしまいます。
歯石がついて細菌感染がひどい歯は歯根膿瘍という状態になっており、歯の根っこや周囲の顎の骨が溶けてしまっています。歯石を取るだけではなく、歯ごと無くしてしまった方が効果的なのです。

抜歯をした後の口でもペットフードは問題なく食べることができるので、少しかわいそうですが可能であれば全部の歯を抜いてしまった方が良好な治療経過が得られます。まれに、抜歯をしただけでは痛みが残ってしまうこともありますが、そうなってしまったら内科での治療を追加します。

抜歯は麻酔が必要になるため、慢性腎臓病をはじめとした内臓疾患を持っているネコちゃんは実施が困難です。抜歯が行えない、もしくは症状が残ってしまった子の場合にはステロイドや痛み止めなどを使っていきながら食欲を維持していくことが目標になります。

内科療法の方が負担は少ないようにも思えますが根治にはならず、ステロイドなどの痛み止めの多くは腎臓に負担をかけるため、投与のメリット・デメリットを天秤にかけ、飼い主と獣医でよく相談をしながら治療を進めて行くことなります。

口内炎にしない。今からできること

口内炎にしない。今からできること

一度口内炎になってしまうと治すことが非常に困難なため「難治性口内炎」とも呼ばれています。では、口内炎にしないためにどのようなことができるのでしょうか。

まず、歯石が原因であることから歯磨きは有効。口周りを触られることが嫌いなネコちゃんも多いですが、小さい頃から少しずつ触る練習ができるといいですね。どうしても触らせてくれない子にはハミガキ以外に、飲み水に混ぜるタイプのデンタルケア用品を使ってみるのもいいでしょう。

また原因となるウイルスに対してはワクチンも存在します。ネコヘルペスウイルスやカリシウイルスは3種混合ワクチンが、白血病ウイルスに関しては5種混合ワクチンがあり予防することが可能です。ワクチンを接種していることで100%予防できるというわけではありませんが、リスクを減らしていくためには有効な手段です。

以上、今回は猫の口内炎について解説しました。

高齢のネコちゃんとは切っても切れない病気ですが、予防・治療をしてご飯をモリモリ食べられる健康なシニアライフを送っていきたいですね。

獣医師 タメになる ねこ シニア

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この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

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