胃腸炎だけじゃない!嘔吐に隠れた病気たちに気をつけて

2023/01/10

胃腸炎だけじゃない!嘔吐に隠れた病気たちに気をつけて

嘔吐に隠れた病気とは?

前回記事【季節の変わり目はペットの嘔吐や下痢、胃腸炎に要注意】では胃腸炎を中心に嘔吐・下痢の程度や種類についてまとめました。
単純な胃腸炎であれば対症療法でよくなるパターンが多いですが、今回は胃腸炎ではない消化器症状を引き起こす病気たちを紹介します。

中には緊急性の高いものもあるため単純な嘔吐・下痢と思わないように注意しましょう。

嘔吐にもっとも似た症状に「吐出(としゅつ)」というものがあります。
これは非常に嘔吐と似ているため区別がつかない場合も多くみられます。
嘔吐との最大の違いは胃のなかに入っていたものが出たのか、胃に入る前に出てきたかという点です。

病気の原因は食道にあることが多く、先天性の疾患や神経症状、免疫異常をはじめ食道炎や食道狭窄、異物による閉塞も原因になります。
閉塞性の吐出以外は緊急性が高くないことが多いですが、吐出を繰り返すことで誤嚥性肺炎のリスクが著しく上昇。
誤嚥性肺炎は症状が強く、治りにくいため注意が必要になります。

胃腸からくる嘔吐

胃腸の障害からくる嘔吐のなかにも単純な胃腸炎が原因ではないものが多くあります。
膵炎や胆嚢炎といった消化管以外の内臓の炎症もあれば、大型犬や胸の深い犬種がなりやすく、
緊急性が高いものに「胃拡張・胃捻転」があります。

これはお腹の中で胃が回転し、胃の中にガスが溜まってしまって苦しくなってしまう疾患です。
ただ苦しくなるだけではなく、胃が回転することで周囲の血管を巻き込み、
血流を止めてしまう事で急激に症状が進むため、命に関わる危険な状態になります。

対処としては、ガスを抜きながら手術で胃の位置を正しい場所に戻します。
術後の後遺症が起きる可能性も高く、手術が成功しても油断できません。
症状として嘔吐を伴わないこともあり、急な腹部の痛みや元気消失などの体調変化や腹部膨満には注意しましょう。

その他にも異物を飲み込んでしまった時に、胃や腸に詰まってそこから先に食べたものが進んでいかなくなることで起きる消化管閉塞も内視鏡や外科手術での対応が必要になります。

消化管以外からくる嘔吐

消化管以外からくる嘔吐

内臓の機能異常からくる嘔吐も多くあり、最も代表的なものは「慢性腎臓病」です。

特に高齢のネコちゃんに多い疾患ですが、
本来尿中に排泄されるはずの毒素がうまく濾過されず、体内に残ってしまうために吐き気や倦怠感を催します。
合わせて食欲不振になることも多い病気です。
緊急性の高い病気ではありませんが、定期的な点滴治療や食欲不振との戦いになるため根気が必要となります。

糖尿病も気がつかずに進行していくと嘔吐を引き起こします。
糖尿病の状態が長期間続くとケトアシドーシスという病態に移行してしまいます。
以前も記事にしたことがありますが、
この状況では体内のミネラルバランス・酸塩基バランスの異常をきたして嘔吐などの症状を表します。
この状態も緊急性が高いものになるので病院での入院治療が必要になります。

内分泌疾患であまり知られていない嘔吐を引き起こす病気に「アジソン病」という病気もあります。
聞き馴染みがないかもしれませんが、きっかけが掴みにくく、進行すると急激な変化をすることもある重要な疾患です。

これは別名「副腎皮質機能低下症」とよばれ、
副腎というストレスに対応するためのホルモン、コルチゾルを作ってくれる臓器があり、
その機能が低下することで発生します。
初期のアジソン病では嘔吐下痢や震えなどといったものからはじまります。
これらの症状はどの病気でも比較的起きやすいものであるため、その段階で気づかずに放置してしまうと大変。
虚脱(急に意識を失ってしまうこと)や不整脈を引き起こしてしまいます。

この状況でもケトアシドーシスと同様に体内のミネラルバランスが崩れる電解質異常を引き起こします。
電解質は神経や細胞の機能を司るとても重要な物質のため神経や心臓の機能が正常に行えなくなるなど
重篤な状態に移行しやすく、治療に関しても繊細な微調整が必要になります。

高齢の子では避けては通れない問題の一つに腫瘍(ガン)があります。
全体的な高齢化が進んでいるなかで死亡率の50%を占めているともいわれる腫瘍ですが、
これも嘔吐を引き起こす病気として知られています。
悪性腫瘍は体内に吸収した栄養を奪っていき低栄養の状態になってしまう「悪液質」を引き起こします。
このような状態になっていると腫瘍の末期に近づいており、嘔吐・下痢を始め元気消失なども引き起こします。

またそれだけではなく、消化管内の腫瘍も嘔吐の原因となります。消化管腫瘍自体はワンちゃんネコちゃんいずれでも起きる可能性があります。
早期であれば外科手術により治療できる事もありますが、進行が早いと抗がん剤などを併用して戦っていかなくてはならなくなります。

このように多様な病気のシグナルになる嘔吐・下痢。

今回は嘔吐に着目してみましたが、症状が強く出てくるようであれば早めに病院に行き、しっかりと検査をすることが大切です。
また、症状が出ていなくても今回紹介した病気たちは健診で見つけることができるので、一年から半年に一回は全身をチェックしておきたいですね。

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この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

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