下痢やお腹が膨れてきたら「低アルブミン血症」かもしれません
2023/01/31
アルブミンとは?
健診をはじめ、体調が悪い時に実施する血液検査は、病院や内容によってその項目は異なりますが、
やはり一番目に留まりやすいのは腎臓や肝臓など、内臓の数値ではないでしょうか。
そんな多くの血液検査項目の中で、目立ってはいないけれど、
実は体のコントロールや維持に非常に大切な「アルブミン」についてお話ししてみようと思います。
血中蛋白にも種類がある
血液中に存在する蛋白質の中でも、特に血清に存在する蛋白質を「血清総タンパク質」(Total Protein,TP)と言います。
TPは2種類の蛋白質で構成されており、それがアルブミン(Alb)とグロブリン(Glb)です。
これらの項目は血液検査結果ではAlb、Glb、TPとして並べて書いてあることが多く、
これらの蛋白質のほとんどは肝臓で合成されて血中に放出されます。
アルブミン(Alb)は肝臓で産生される蛋白質です。
今回の主題である「低アルブミン血症」は体内で合成されるアルブミンの量が低下する。
もしくはどこからか体外に漏れ出てしまうことで発生します。
アルブミンの体内での役割は水分の保持と栄養素の運搬です。
アルブミンはその周囲に水分を引き寄せる重要な性質(膠質浸透圧)をもち、血管内の水分を確保する役割があります。
もともと血管は水分を全く通さない管ではなく、小さい穴が多く空いていて、
そこから周囲の細胞と色々なもののやりとりをしています。
そのためアルブミンがないと血液中の水分がどんどん外に出て行ってしまい、むくみなどの原因になってしまうのです。
また、アルブミンはカルシウムや亜鉛といったミネラルの運搬の役割も持っています。
グロブリンも主に肝臓で作られる蛋白質ですが、
一部は「免疫グロブリン」とよばれ白血球の仲間であるBリンパ球や形質細胞からも作られます。
免疫グロブリンはよく「抗体」という名前で知られており、体内に侵入してきた細菌と闘うために使われます。
そのため慢性的な炎症や感染症があった場合には、血液検査でグロブリンの値が上昇するのです。
低アルブミン血症で見られる症状
血液中のアルブミンが低下する「低アルブミン血症」。
この状態は様々な病気が原因で引き起こされますが、実際にどのようなことが起きるのでしょうか。
まず一番の問題は血液中の水分が血管内にとどまることができずに漏れ出てしまう事。
それによって十分な血液量が確保できずに全身の循環が悪くなります。
また漏れ出た水分は皮膚の下や腹腔、胸腔に溜まっていき胸水、腹水、浮腫などを引き起こします。
・胸水は肺や心臓が入っている胸腔に水が溜まる疾患です。
本来肺が膨らむスペースであるはずのところに水が溜まってしまう事で呼吸が苦しくなります。呼吸の仕方がおかしい。
肩で息をするなどの症状が現れます。十分に酸素の交換ができなくなり呼吸困難を引き起こす可能性があります。
・腹水は腸や肝臓が入っている腹腔、いわゆるお腹の中に水が溜まります。
そのためお腹周りが大きく膨れてしまいます。
低アルブミン血症の子の多くはお腹が膨れてきたという症状で、来院されることも多くあります。
胸水と違い急変のリスクは高くありませんが、体勢の変化で血圧が急に変わってしまうこともあり、こちらも注意が必要です。
・浮腫は皮膚の下に溢れ出た水分が溜まってしまう状態です。
多くの場合重力に従って身体の下側にある胸や足先などが浮腫んできます。
低アルブミンになる代表的な疾患
1.肝機能障害
肝臓は栄養の貯蔵や再分配、解毒といった機能を果たす臓器です。その役割の中にアルブミンの合成があります。
アルブミンは一度吸収されたアミノ酸から肝臓で合成されるため、
重度の肝臓機能の障害を持つ場合には低下することがあります。
肝臓は元々余力を非常に持っている組織のため、ちょっとやそっとのダメージでは症状がでることはありません。
肝臓機能の20%さえ残っていれば問題ないとの報告もあり、
肝硬変や肝細胞癌といったかなり重度に移行する全体的な疾患で症状が出てくることになります。
2.蛋白漏出性腎症
名前の通り腎臓で尿が産生される際に作られた尿中にアルブミンが漏れ出てしまう病気です。
別名「ネフローゼ症候群」ともよばれ、腎臓の中でも特に最初に血液が濾されて
不純物が排泄される「糸球体」と呼ばれる場所の機能異常で発生します。
糸球体に異常が生じる病気として代表的なものが「糸球体腎炎」や「アミロイドーシス」と呼ばれるものです。
ネフローゼ症候群を放っておくと低アルブミン血症になるだけではなく、慢性腎臓病の悪化や血栓症、
全身性高血圧などその他の病気へ移行する可能性もあり、注意が必要となります。
3.蛋白漏出性腸症
これは腸の管の中にアルブミンが漏れ出してしまう病気です。
消化管の内側は粘膜上皮と呼ばれる細胞で覆われており、その細胞たちはお互いにピッタリとくっついています。
本来はこの粘膜上皮から消化管を走る血液中に消化した栄養素を吸収する働きをします。
慢性腸症と呼ばれるような慢性的な炎症や消化管の腫瘍によってこの上皮同士の繋がりが悪くなることで血液中からアルブミンが消化管のなかに逃げて行ってしまうことで症状がでてきます。
低アルブミン以外で見られる症状としては、漏れたアルブミンによって消化管内により多くの水分が残ることで下痢を起こすことがあります。実際に最初の症状は下痢だった子が調べてみると低アルブミンもあった。
なんてこともあります。
その他にも長期にわたり十分な食事ができていない場合、
栄養不足となってアルブミンを作るための材料が足りなくなる飢餓も原因になり得ますが、
よっぽどのことがない限りはそれほどひどい状態で初めて検査をする。
といった場面は少ないと思われます。
今回は、血液検査項目ではみるけれど、あまり気にされることがないアルブミンについてまとめてみました。
アルブミンは実は大事な検査項目でもあります。次に健康診断をしたときには、少し気に留めてみてもいいかもしれませんね。
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この記事を書いた人
塩田純一郎
首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。
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