うちの子、呼吸が早くない?呼吸促拍のサインと疑う病気

2023/11/02

うちの子、呼吸が早くない?呼吸促拍のサインと疑う病気

これがあると要注意。呼吸促拍のサイン

普段私たちは特に意識することなく自然と呼吸をして生活しています。
ですが、運動した時や意識して深呼吸をする時など、意図的に呼吸をコントロールすることもできますよね。

特に運動した直後は呼吸回数を多くして全身に酸素を送り込もうとします。
それはヒトもワンちゃんも一緒です。

起きている時も寝ている時も運動している時もリラックスしている時も、
呼吸は我々と切っても切り離せない関係にあります。そして、身体の異常を表すときも同様です。

今回は呼吸が早くなった時に疑う病気について解説をしていきます。

・呼吸促拍
まずは「呼吸促拍」についてご説明します。呼吸促拍とは単純に呼吸の回数が多い事を指します。呼吸促拍かどうかは運動や興奮をしていない状態、安静時呼吸回数を測る事で判断します。

安静時呼吸回数は40回を基準にし、それを上回ってしまう状態では異常な呼吸回数と判断します。
40回を超える場合は、興奮や緊張を含めて何かしらの原因によって呼吸回数が上がっていることが示唆されます。

・呼吸困難
呼吸促拍と少し内容が重なりますが、呼吸困難という状態もあります。
呼吸促拍は単純に呼吸回数が増えた状態ですが、呼吸が上手く行えない場合には呼吸困難の症状として現れます。

その場合の呼吸促拍は、一回の呼吸で吸収できる酸素の量が少なくなってしまうため、
回数でまかなうために呼吸が早くなります。
また呼吸困難の場合にはお腹を使って全力で呼吸を行う「腹式呼吸」の状態になる事があります。

腹式呼吸は普段寝ている状態でも行うことのある呼吸法ですが、
苦しくなった際には目に見えてお腹が動くのが分かります。
普段の胸(肋骨や肋間筋)を使った呼吸だけでは十分な量の空気を胸の中に入れることが難しくなるため、
お腹(横隔膜)までをしっかり使って呼吸をしようとするためです。

また呼吸困難の際には床に伏せて寝る事が難しくなったり、
前足を左右に広げて立ち上がったりするような体勢で呼吸することもあります。

これは前足を広げる事で胸郭が開きやすくなり、息を吸った際に空気を入れるスペースを確保する立ち方です。
人が走った後に上を向いたり胸を開いたりして呼吸する体勢と同じ効果があります。

また鼻からではなく、口を開けておこなう開口呼吸もより多く酸素を取り込もうとする行動の一つになります。

これらの呼吸状態の変化を見ながら、おかしいな?と思ったならば動物病院で検査を受けましょう。


気をつけたい誤嚥性肺炎

気をつけたい誤嚥性肺炎

・誤嚥性肺炎
肺に原因がある病気として最もイメージがわきやすいのは肺炎ではないでしょうか。
肺の病気で特に急性に症状が出てくるものが「誤嚥性肺炎」です。
肺炎といっても原因はさまざまですが、
誤嚥性肺炎は特に高齢のワンちゃんが気をつけなければいけない病気になります。

年齢が上がってくると食事をする際に食道と気道を分ける「喉頭」と呼ばれる部分の動きが悪くなってきます。
そのため液状や粘性の高いタイプのご飯を食べたり、横に寝転がっている状態でご飯をあげたりすることで、
誤ってご飯が気道の中に入っていってしまいます。

肺(気道)内には空気以外が入ることは想定されておらず、激しい異物反応が起きてしまいます。
そのため急激に肺の中で炎症が広がり、その炎症によって酸素と二酸化炭素の交換が行われる機能が阻害され、
呼吸困難・低酸素状態になります。

肺炎の治療は酸素室に入り、十分な量の酸素を供給して二次感染を防ぐために抗生剤の治療を行います。抗炎症の治療も行いますが、炎症自体は身体が持つ再生力に頼ることになります。

・肺水腫
心臓が原因で肺に悪影響を及ぼす事もあり、それが「肺水腫」と呼ばれる状態です。

肺水腫とは心臓から上手く全身に血液を回すことができなくなってしまい、
溢れた血液の中の水分が肺の中に溜まってしまって溺れた状態になることを言います。

肺水腫の治療も肺炎と同じく酸素室に入って身体の負担を和らげつつ、
利尿剤や強心剤を使って心臓の動きをサポートし、全身の循環を確保します。

・胸水症
肺や心臓がある領域を胸腔と言いますが、この胸腔に水が溜まる事で呼吸が苦しくなる場合もあります。
これを「胸水症」といい、心臓病が原因の事もあれば、
腫瘍や感染など様々な原因によって胸腔内に液体が溜まってしまう状態です。

血液や漿液(しょうえき)といったものから、膿が溜まるなんてことも。
ただ、この場合には超音波検査やレントゲン検査で発見ができます。
多少のリスクはありますが、胸腔に針を刺して中の水を抜くことにより呼吸を楽にしてあげる事も可能です。

その後は原因疾患を治療していくことになるため、
どれくらいのペースでまた胸水が溜まってくるかは状況次第になってしまいます。

肺炎や肺水腫・胸水症は診断がついた際に治療をいかにスムーズに行えるか、
酸素室に入り、呼吸・循環に負担を掛けないでいられるかが治療の反応予後を左右するポイントになります。

また肺炎・肺水腫に関しては主にレントゲンで診断していくことになりますが、
肺炎と肺水腫はレントゲンでの異常所見が同じような映り方をします。

ある程度の傾向はあるため仮診断としては成立しますが、
呼吸器の疾患の場合には追加の検査だけでも身体の負担になる事が多く、
厳密な診断の確定は治療反応を見てから決める事も多くあります。


苦しくはないけれど呼吸促拍になる病気

苦しくはないけれど呼吸促拍になる病気

呼吸促拍を認める病気は呼吸器疾患に限ったものではありません。
まず一つは「疼痛(とうつう)」。
痛みが強い病気の場合には、その痛みを我慢するときに呼吸が早くなってしまう事もあります。

例えば脊椎椎間板ヘルニアのような強い神経痛を示すもの。
また膵炎や胆のう炎といったように腹腔内で強い疼痛を示すものも呼吸が早くなります。

椎間板ヘルニアの場合には後肢の跛行や脱力といった別の症状が出てくる事も
多くあるためある程度区別はできますが、診察室で確認するよりも前には、
なぜ呼吸が早いのか分からない場合も多々あるため、早めに診察を受けて診断をつける事が大切になります。

痛み以外では、発作の前後に発揚(はつよう)といって神経が高ぶってしまう状態になる事があります。

この時の神経の活動状態は正常なため、精神活動自体には異常がありませんが、
神経の興奮に伴って落ち着きの無さが見られたり、呼吸促拍を呈することがあります。

呼吸器由来の呼吸促拍でも苦しさから不安感を持ち、そわそわしてしまう子も多いので、
痛みよりも発揚の方が呼吸器疾患での呼吸促拍と区別が付きにくくなってしまうかもしれません。

明らかに発作を起こした跡があったり、
目の前で発作が起きたりしている場面に出会っているのであれば間違えることはありませんが、
お留守番の際に発作を起こして、
いざ帰宅してみると妙にそわそわして落ち着かず、呼吸が早いといった場面に遭遇すると、
実際に診察を受けて聴診やレントゲン検査を行ってみないと、
肺に異常があるかどうか判断できないということもあります。

これらの場合には呼吸が早くなっていたとしても酸素が取り込めていないというワケではないため、
痛みの管理や発作止めによる神経の安定化を行うことができれば、比較的早期に改善できます。

今回は呼吸が早くなってきた時に疑われる病気について解説しました。

特に呼吸器の病気の場合には一刻も早く苦しい状況から助けてあげたいという気持ちになります。
これは、飼い主さんと我々獣医師共通の思いです。

落ち着いているはずの場面でも苦しそうな時は早めに近くの病院に相談してみてくださいね。

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この記事を書いた人

塩田純一郎

塩田純一郎

首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。

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