繰り返すことで精度向上 糞便検査の正しい受け方
2024/05/30
季節の変わり目のストレス注意!
季節の変わり目になると体調を崩しがちになるペットがいます。
ワンちゃんやネコちゃんは気温の変化を知らず知らずにストレスとして感じてしまい、
胃腸炎を始めとした消化器症状を引き起こすのです。
単純なストレス性の胃腸炎であれば一般的な治療で改善しますが、
気付かない間に寄生虫感染を起こしているとすこし厄介になります。
一過性の急性胃腸炎という症状だけでなく、
慢性腸症と呼ばれるような3週間以上続く消化器症状の場合には寄生虫の感染が疑われます。
寄生虫感染の多くは糞便検査で感染の有無を確認することができます。
糞便検査は身体への負担も少なく簡単にできる検査ですが、
その時に注意しないといけない点もいくつかあるのです。
糞便検査の基本
糞便検査とは軟便や水様便などの下痢の症状が出ている時に行われる検査です。
糞便検査で確認するポイントは寄生虫感染の有無、細菌や真菌のバランス、食べ物の消化具合になります。
糞便検査のやり方は、大きく分けて直接法と浮遊法に分けられます。
方法が違うということはそれぞれで着目する点が異なるということです。
直接法では糞便中にいる細菌や食べ物の未消化物などを観察することができます。
また寄生虫の中でも原虫とよばれる種類の寄生虫は直接法で観察できます。
対して浮遊法では線虫や条虫とよばれる原虫よりも大きな種類の寄生虫の卵を検出できます。
線虫や条虫が大量に寄生している場合には虫体が糞便中に現れる事もあるため、
オーナーさんから寄生虫を見つけたということで検査をする場合もあります。
糞便検査での寄生虫の検出率はそこまで高くないため、
一度検査をして「寄生虫はいませんよ」と言われたとしても、
何回か検査を繰り返すことでより精度をあげることができます。
特にブリーダーやペットショップから来たばかりの子は寄生虫の存在率が20〜30%とも言われているため、
お家に来てから2、3回くらいは問題がなくても検査してみてもいいと思います。
たまにですが、お腹をこわして下痢をしているので糞便検査をして悪玉菌を見てくださいと言われることがあります。
お腹を壊している時には腸内細菌のバランスが気になる方も多いようですね。
一部の悪玉菌(らせん菌や芽胞菌と呼ばれる仲間)が目立つようになってきているな、
ということは糞便検査で観察することができますが、それが実際に腸内にどれくらいのバランスで存在しているのかや、
今の症状に対してどれくらいの影響を出しているのかといった事は、実はかなり複雑な要素の絡み合いになります。
そのため、事実としてそのような菌の種類が増えているとお伝えすることはできても、それがどこまで悪さをしているのか、
胃腸炎に対して抗生物質を使う必要のある細菌性胃腸炎として診断されるのかどうかといった判断材料にはならないと言われています。
以前は胃腸炎に対して抗生物質が処方されていることもありましたが、
現在では胃腸炎の治療に抗生物質は必要性が高くないと言われています。
自分の治癒能力でしっかり直せる程度の胃腸炎が割合としてとても多いということなのでしょう。
もちろん抗生物質が不要というわけではなく、必要な時には適宜使用することにはなりますが、
症状の進行や程度で選択されるようにだんだんと変化してきました。
外見で判断する便性状
まず、すべての糞便検査で基本になるのが肉眼的観察。
これは便の硬さや色味、混合物を判断材料にします。
一般的な色の変化は「黒色便」「赤色便」「灰白色便」「緑色便」に分けられます。
黒色便は胃や小腸からの出血、赤色便は大腸以降の出血を疑います。便が全体的に真っ赤になるわけでなく、
一部血交じりだったりオレンジ色の粘液便のようになっていたりする場合は下痢を繰り返すことで粘膜が弱まっているだけかもしれません。
その程度の出血であれば、そこまで心配する必要がないケースが多いでしょう。
灰白色便は脂肪分が多い消化不良の便をあらわします。この場合には膵外分泌不全や胆汁排出障害というような病気を疑います。
緑色便は全体的な消化不良や胃腸炎による消化時間の短縮が疑われます。
本来消化の過程で再度身体の中に吸収されるはずの胆汁が消化不良を起こすことでそのまま排泄されることで色の変化が現れます。
便の硬さを中心とした肉眼的な所見については、実はグレード分類があります。
ウォルサム研究所というイギリスのフードメーカーが出しているもので、
ざっくり説明すると、硬すぎる便、通常便、軟便といった状態を9段階に分類しています。
特に軟便については、形はあるが、取り上げるとちょっと跡が残る程度までは許容範囲とされています。
ただし、それ以上やわらかくなってくるようだと要注意とされています。
このように便の色・形から得られる情報が非常に多くあります。
診察の際に便そのものを持ってくることができればそれに越したことはありませんが、
便の状態を獣医さんに伝えたり、写真を取って状態がわかるようにしたりできると、より診断の精度が上がっていくと思います。
浮遊法で観察される寄生虫
以前の記事でも書きましたが → 【春の予防で一緒にやろう!消化管内寄生虫】
その記事の中で紹介している寄生虫は概ね糞便検査で虫卵を確認することができます。
また、見つけることができた虫卵の形からどの寄生虫が寄生しており、どの駆虫薬を使えば適切に治療ができるのかの判断基準にもなります。
そもそも予防をしっかりしている子であれば、線虫類については防ぐことが可能です。
日常的に予防していればそれが原因で消化不良を起こすことはほとんどありません。
しかし条虫など一部の寄生虫は一般的な予防薬では対策できない種類も存在します。
また条虫のなかでも瓜実条虫と呼ばれる種類は必ずしも糞便中に虫卵がそのまま現れる訳ではなく、
片節と呼ばれる虫体の一部がちぎれたものの中に卵が詰まっている状態で排泄されることもあります。
片節はよく見ると肉眼でも観察可能な物ですが、逆に虫卵の出現率にはばらつきが出てきます。
そのため虫卵を顕微鏡で見つけることができなくなり、検査の精度としてばらつきが起きてしまうことも。
そのため、1回の検査で陽性の判断ができない可能性もあります。
糞便検査全体に言える事ですが、大切なポイントは1回で必ずしも検査し切る事ができないため、
治療反応が悪ければ繰り返し検査を行って精度をあげる必要があるということを忘れない事です。
今回は糞便検査についてまとめてみました。健康診断の時に一緒にやる病院もある一般的な検査ですが、
実は検査結果を安定させるのが難しい検査でもあります。それでも得られる情報は多く、
結果次第では治療方針が大きく変わってしまう可能性のある検査です。
重ねてになりますが、複数回の検査で見つかる事もあるので担当の獣医さんとしっかり話してすすめて行きましょう。
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この記事を書いた人
塩田純一郎
首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。
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