原因は心臓?ネコが歩けなくなる「動脈血栓塞栓症」とは
2021/11/18
ネコちゃんの緊急性の高い疾患
前回は椎間板ヘルニアによるワンちゃんの歩行不能、後ろ足の麻痺をお話しましたが、今回はネコちゃんの似たような病気を解説していきます。
その名も「動脈血栓塞栓症」。こちらも椎間板ヘルニアに負けず劣らず緊急性の高い疾患です。
急にうちの子が歩けなくなる状況はショッキングで、パニックを起こしてしまう飼い主さんもいらっしゃいます。
そんな時にもある程度の病気の症状と、すぐにできる対処法を知っていることで少しでも冷静になってもらえたらと思います。
急に叫んで動けなくなったら動脈血栓塞
「ネコちゃんが急に叫んで動けなくなった」
診察室でそう言われた時、真っ先に疑うのがこの動脈血栓塞栓症。
動脈の中に何かが詰まってしまう病気です。
詰まるもので最も多いのは血液が固まった血栓。
動物の種類によって血管の走行はある程度決まっており、ネコちゃんの場合に最も多い梗塞部は心臓から出ていき下半身に向かう動脈です。
左右の足に分岐する部分が急に細くなっているためそこに詰まってしまいます。
動脈梗塞は強い痛みを伴うので、詰まった瞬間に叫び声をあげてしまうのです。
そしてその先の血管に十分な血液が供給されなくなることで酸欠になり、痛みを含めた感覚がなくなり動かすことができなくなってしまいます。
血栓はなぜできるのか
血栓とは、本来出血した時に血液が固まる性質が誤って血管内で起きてしまったもの。
血管の内側の損傷や心臓の病気によって発生します。
その他、血液の流れが悪くなることや、血管内での細菌や寄生虫の感染も血栓形成の原因になります。
頻度は少ないですが、前足に行く血管に詰まれば詰まった側の足が症状を出しますし、脳や心臓はもちろんのこと、臓器を支配する血管に詰まればその臓器が機能不全を起こすことも。
例えば腎臓の動脈で詰まればおしっこが作れなくなる等、血栓が詰まる部位により様々な症状を示します。
血液の性状が変わって血液凝固 (血液が固まること) が亢進した場合は多発する場合もあり、重度のものは「播種性血管内凝固」と呼ばれ救急医療の場面でも大きな問題となる疾患の一つに挙げられます。
動脈血栓塞栓症が猫に多いワケ
前回の椎間板ヘルニアもワンちゃんで多いとお話ししましたが、ネコちゃんで起きた症例も観たことがありますし、逆もまたしかり。
ただし割合で言うと動脈血栓塞栓症は圧倒的にネコちゃんに多くみられます。それは「肥大型心筋症」という病気が関連してくるからなのです。
肥大型心筋症とは血液を送り出す心臓の壁が分厚くなってしまい、収縮する機能が制限されてしまう病気。
そのため収縮力、つまり血液を送り出す能力が低くなり、心臓内で血液が滞ってしまいます。
血液はスムーズに流れていないと固まってしまうようにできています。
(切り傷をした時に傷口を押さえていると血が止まるのはこの性質のため)
そのため心臓の中で血栓ができ、収縮に合わせて動脈内に送り出されます。
そして行きつく先が足へと分岐するために細くなった場所というわけです。
この肥大型心筋症は圧倒的にネコちゃんに多く、特にペルシャ、ヒマラヤン、メイン・クーン及びアメリカン・ショートヘア―の発病率が高く、メイン・クーンやアメリカン・ショートヘア―は素因を持つ遺伝子まで特定されています。
ワンちゃんでの報告は多くはないですが、ジャーマンシェパード、ドーベルマン・ピンシャー、イングリッシュ・コッカー・スパニエルで報告されているようです。
動脈血栓塞栓症の症例に対しては心臓の検査も実施し、肥大型心筋症を伴う場合には動脈血栓塞栓症の症状が落ち着いた後に心臓に対する継続治療が必要となります。
以上、今回はネコちゃんが急に歩けなくなる動脈血栓塞栓症について解説しました。
重ねてになりますが、もしこのような事態になった場合は安静にして病院に行きましょう。
また梗塞が起きた時の痛みもとても強く、ネコちゃん本人も歩けなくなった事も相まって苛立ったりパニックなっていたりする事も多く見られます。
そんな時は誰彼かまわず噛みついてしまう事もあるのでそうした点にも気をつけてください。
もしもなってしまったら
無処置で様子を見たりすると梗塞部より先端が壊死し、悪化すると断脚しなければならず、よりひどくなると命に関わります。
動脈血栓塞は、最初に強い痛みが起きて後ろ足が動かなくなるという事から、様子見をする事もほとんどないと思いますが、激しく動かさず、安静を維持したまま患部を温めながら病院に直行してください。
病院で診てもらう前では本当にこの病気かはわかりませんが、どのような原因であるにしろ安静を維持して病院に行くことが第一目標になります。
ただし、病院に着いたら一安心。とはならないところがこの病気の難しい点。
なぜなら病院においても取れる選択肢がそこまで多くなく、原因に対して直接的な処置を行いづらいためです。
物理的な原因に対して有効な手段の多くは外科手術を行うことです。
しかし梗塞部位がお腹の中の大きな血管ということもあり、そのまま外科手術を、とはなりません。
梗塞部位を確認するためにMRIを撮らなければいけませんし、そもそもカテーテルを用いた外科処置を行う設備を全ての病院が持っている訳でもありません。
そのため、痛みを取り除き、それ以上血栓が大きくならないようにしたり、点滴剤を用いて血液の循環を良くしたりといった対処療法が中心となります。
スムーズな初動と併せて運も治療結果を左右する大きなポイントになります。
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この記事を書いた人
塩田純一郎
首都圏で5年間犬猫を中心とした診療に携わりました。
その後は病気のメカニズムや細胞たちの反応、薬の作用について勉強しています。
日常の身近な疑問や病気のメカニズムについて、わかりやすくお話しできればいいなと思っています。
よろしくお願いします。
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